大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)17040号 判決

原告 株式会社ナナトミ

右代表者代表取締役 江川明

右訴訟代理人弁護士 岩崎精孝

同 石井和男

被告 株式会社ノバ

右代表者代表取締役 高見澤威夫

右訴訟代理人弁護士 鈴木則佐

主文

一、被告は、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物を明け渡せ。

二、被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の土地を明け渡せ。

三、被告は、原告に対し、金八四二万五四〇〇円及び平成三年一一月一日から右建物の明渡済みまで一か月金一四五万三〇〇〇円の割合による金員を支払え。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

五、この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一、請求の趣旨

主文同旨

第二、事案の概要

一、本件は、原告が、被告に対し、賃貸借契約終了による別紙物件目録(一)記載の建物及び同(二)記載の土地の明渡等を求めた事案である。

二、争いのない事実等

1. 原告は、被告に対し、平成元年八月一日、別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)を、左記約定により貸し渡した(以下「本件建物賃貸借契約」という。甲第一号証及び第六号証並びに原告及び被告各代表者尋問の結果)。

賃貸期間 平成元年五月一日から三年間

賃料 一か月金一三二万三〇〇〇円

費用 次の費用は賃借人(被告)の負担とする。

①共益費 一か月金一三万円

②電気・ガス・水道料及びその他雑費

③賃料・共益費に対する消費税金四万三五九〇円

支払方法 毎月末日限り翌月分を賃貸人(原告)へ送金して支払う。

特約 賃借人(被告)が、賃料・その他の支払を一回でも怠ったときは、賃貸人(原告)は無催告で賃貸借契約を解除できる。

2. 原告は、被告に対し、平成三年五月一日、別紙物件目録(二)及び(三)各記載の土地を、左記約定により貸し渡した(以下、後記3の改定を含め「駐車場賃貸借契約」という。甲第二号証及び第六号証並びに原告及び被告各代表者尋問の結果)。

賃貸期間 平成三年五月一日から一年間

保管車両 四台分

賃料等 一か月金二〇万三〇〇〇円及び消費税金六〇九〇円

支払方法 毎月末日限り翌月分を賃貸人(原告)へ送金して支払う。

特約 賃借人(被告)が、賃料の支払を一回でも怠ったときは、賃貸人(原告)は無催告で賃貸借契約を解除できる。

3. その後、原告と被告は、平成三年八月から別紙物件目録(三)記載の土地につき右2の賃貸借契約を一部合意解約し、被告の支払うべき右賃料等を一か月一五万三〇〇〇円及び消費税金四五九〇円に改定した(甲第二号証及び第六号証並びに原告及び被告各代表者尋問の結果)。

4. ところで、原告は、東京地方裁判所に対し平成三年一月一六日和議開始申立てをし、同裁判所において同年七月二六日午後二時和議開始決定があり、同年一一月六日に所定の和議認可決定を受けた(甲第四号証及び第五号証並びに乙第一号証の一、弁論の全趣旨)。

三、争点

1. 原告の主張

(一)  原告は、被告に対し、平成三年一〇月二一日到達の書面でもって、同年五月ないし八月及び一〇月分の本件建物及び駐車場各賃貸借契約に基づく未払賃料等合計金八四二万五四〇〇円を五日以内に支払うよう催告をし、更に右期間内に支払がないときは当然に右各賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

(二)  被告は、右未払賃料等を支払うことなく、平成三年一〇月二六日が経過した。

(三)  被告の平成三年一〇月までの本件建物及び駐車場各賃貸借契約に基づく未払賃料等合計額は別紙「(株)ノヴア ナナトミ原宿ビル賃料入金状況表」記載のとおりであり、本件建物についての賃料相当損害金は一か月金一四九万六五九〇円の割合による金員である(但し、このうち原告は平成三年一一月一日からは本件建物明渡済みまで一か月金一四五万三〇〇〇円の割合による右損害金の限度で支払を求めている。)。

(四)  原告は、将来被告へ返還する可能性のある本件建物賃貸借契約にかかる保証金返還義務を免れるべく前記和議申立てをしたものではなく、また、その手続を濫用したものでもない。和議手続において、和議債権の減免を内容とする和議条件が認可されることは正義衡平の原則に反するものではないうえ、憲法二九条にも違反しない。

したがって、本訴請求は、原告の正当な権利行使である。

2. 被告の主張

(一)  被告が原告に預けた本件建物賃貸借契約にかかる保証金一五〇〇万円の返還請求権は、その債権額につき前記和議手続によって大幅に減額されるおそれがある反面、原告の被告に対する前記未払賃料等の請求権は、その債権額全額につき請求権を行使できるものであって、不公平であり、正義衡平の原則に違反する。

(二)  原告の本訴請求は、憲法二九条に対する明らかな侵害を裁判所の和議認可を濫用して断行しようとするものである。

(三)  したがって、被告が平成三年五月分から現在まで前記賃料等及び賃料相当損害金の支払を正当に留保することができるものであり、かつまた、右賃料等支払義務につき履行遅滞はなく、前記原告の各賃貸借契約解除はいずれも無効である。

四、証拠〈省略〉

第三、当裁判所の判断

一、前記「争いのない事実等」に加えて、〈証拠〉弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

すなわち、

1. 被告は、原告に対し、本件建物賃貸借契約及び駐車場賃貸借契約による平成三年五月ないし八月及び一〇月分の賃料等合計金八四二万五四〇〇円の支払を所定の各期限(毎月末日限り翌月分を前払いする。)までにしなかったこと、

2. そこで原告は、被告に対し、平成三年一〇月二一日到達の書面でもって、右未払賃料等を五日以内に支払うよう催告し、かつ、右期間内に支払がないときは右各賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたが、右支払のないまま同月二六日が経過したこと、

3. 被告の平成三年一〇月までの右未払賃料等合計は別紙「(株)ノヴア ナナトミ原宿ビル賃料入金状況表」記載のとおりであること、

4. 本件建物についての賃料相当損害金は、本件建物賃貸借契約等によれば原告主張の一か月金一四九万六五九〇円の割合とみられること、

5. 原告は、東京地方裁判所に対し平成三年一月一六日和議開始申立てをしたところ(当庁平成三年(コ)第二号和議開始申立事件)、同裁判所において、同年七月二六日午後二時和議開始決定があり、同年一一月六日別紙「和議条件」記載のとおりの和議認可決定がなされたが、即時抗告が出ていることの各事実が認定でき、右認定に反する格別の証拠はない。

ところで、被告は、前記「被告の主張」のとおり、原告に和議手続が進行しているため、被告の原告に対する反対債権の行使を確保する対抗手段として前記賃料等の弁済を留保したものであって、被告には右賃料等の支払を正当に拒む事由が存し、したがって、その履行遅滞はない旨陳述している。

しかしながら、経済的には債務者(本件では原告)の倒産という事実によってその債権の実質的価値が乏しくなっているのであって、和議手続によりはじめて右債権の経済的価値を低減したわけではないのである。しかして、和議法は、企業を破産手続によって解体することが、その債権者はもとより、社会的、国民的経済的損失をもたらすことにかんがみ、再建の見込みのある者について、債権者等の利害関係人の利害を調整しながら、事業の維持等をはかることを目的とするものである。この目的を達成するため和議法上、財産権の各種規制がなされているうえ、和議が、和議の効力を受くべき債権者全員のために全員に対してその効力を有し、債権の内容は和議認可決定が確定すれば和議条件のとおり変更されることになるが、これは公共の福祉のため憲法上許された必要かつ合理的な財産権の制限であるものと解するのが相当である。

また、原告の和議申立て及び本件訴えが、権利の濫用に該当し、又は、正義衡平の原則に抵触するものと認めるに足りる的確な証拠はない。

してみれば、原告に対して和議法上の和議手続が進行していることは、被告の前記賃料等及び賃料相当損害金の支払を拒絶する正当な理由とはなり得ないことが明らかである。

結局、原告の前記解除の意思表示によって、本件建物賃貸借契約及び駐車場賃貸借契約は、平成三年一〇月二六日の経過により終了しているものと認められる。

二、結論

よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 河野清孝)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例